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水戸地方裁判所 昭和53年(ワ)291号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

<証拠>を総合すれば、次のような事実が認められる。

1 原告は会社役員であるが、昭和四九年四月下旬ころ、県庁の職員に案内され、被告が経営している小料理店「初恋」で客として飲酒したことにより、被告と知り合つた。当時、被告は夫と離婚し三人の子供をかかえて店をやつていたので、原告に対しその身上話や、借金で苦労をしている話等相当立ち入つた話をした。その後、日を経ず再度原告は「初恋」に飲みに来たが、当時被告は土地の問題で民事調停をしていること等話したところ、原告は借金等を尋ねそれを払つてやつてもよい口振りであつたので、被告は同夜原告に妻子のいることを知りながら、当時七〇才に近い原告とホテルへ行き肉体関係を持つた。その後原告はしばしば「初恋」を訪れ、月二回位の割合で被告と関係を持ち、昭和五〇年一二月ころ自然に切れるまで右関係が続いた。

2 被告は当時訴外大和田喜幸を相手方として水戸簡易裁判所で宅地買受請求調停事件をやつていたが、右調停は昭和四九年七月ころ、ほぼ話がまとまつていた。その内容は、被告が大和田所有の水戸市藤柄町一四三九の一宅地52.89平方メートル(以下本件土地という)を代金一六〇万円で買受け、右代金と従前の地代四〇万円との合計二〇〇万円を分割支払うというもので、次回調停期日の同年八月七日には内金五〇万円を現実に支払つて調停調書を作ることになつていた。そこで、右支払に窮していた被告は、原告に対し右事情を話し、五〇万円の出捐を求めた。原告はこれを承諾し同年八月ころ貸付か贈与かその趣旨を明示せず、従つて弁済期日や利息を定めることもなく五〇万円を被告に交付した。被告は右金員を同年八月七日の調停席上で大和田に支払い、前記趣旨の調停(残金の支払方法は昭和四九年八月から昭和五〇年七月まで毎月六万円宛、同年一二月二〇日七八万円を支払う約定)が成立した。そこで被告はさらに同年一二月二〇日ころ右七八万円の出捐を原告に求めたので、原告は再度七八万円を被告に交付し、被告はこれを大和田に支払つて、本件土地を取得した。

3 ところが、昭和五一年三月ころになつて財産を持つてきて被告と一緒になると言つていた原告が来られないと言い出したことから、被告と口論となり、原告は渡した金を返せと言い出した。被告も腹立ちまぎれではあつたが、原告も年をとつて可愛そうだと思い、受取つた合計一二八万円を毎月五万円宛割賦返済することに同意し、原告の求めるままに被告の印章を渡したところ、原告は「被告所有の本件土地を一五〇万円で買受け、被告は右代金を受領した。被告が右一五〇万円を昭和五一年三月二五日から毎月二五日に五万円宛を支払つたときは、被告は右売買を解約することができる。」という趣旨の昭和五〇年一二月二〇日付契約証(甲第一号証)を作成し、被告名下に右印章を押捺した。原告としては貸金一二八万円に利息二二万円を加えた金額合計一五〇万円を毎月五万円返済させるために、本件土地を担保とする趣旨で右のような契約証を作成したものであるが、そのような話合いも被告の了解もなく、被告との間には被告が受取つた一二八万円を五万円宛月賦返済する合意が成立したに過ぎなかつた。

4 その後、被告は昭和五一年三月二五日から昭和五二年三月二五日までの間に五万円宛九回にわたつて、取立に来た原告に返済したが、もらつた積りであつたので、ばからしくなりその後は支払を拒絶した。

<証拠判断略>

二右認定によれば、昭和五一年三月ころ原・被告間に少くとも被告が受領した金員合計一二八万円を、毎月五万円宛原告に返済する旨の合意が成立したものというべく、原告の訴旨も右合意に基づく請求と認められるところ、被告は右返還の合意は不法原因給付の返還を認める結果となるから、公序良俗に反し無効である旨主張する。

そこで考えるに、前記認定に徴すれば、原告が合計一二八万円を交付したのは、肉体関係にある被告の歓心を買う趣旨にあつたことは推認に難くないところがあるが、被告が本件土地を入手すれば、他より金借して返せるような口振りであつたことによるものでもあつたことも窺われる。一方、被告は原告より金を出させる趣旨で原告に近付いたとまでは言えないにしても、当時別件調停事件で必要とされる代金の調達が念頭にあつたものと思われ、それがために右代金支払の頃、右代金額と同一の金額を原告に出捐させたもので、原告も右金員が本件土地入手のための代金となることを承知していたことは明らかである。そして原告は、被告経営の「初恋」にしばしば訪れ飲酒したが、老令でかつ糖尿病であつたから、口先は免も角、本心では継続的、恒常的に被告と情交関係を持ち、その経済的援助をする、いわゆる妾として世話するまでの意思はなかつたものと認められる。

してみると、本件一二八万円の出捐は情交関係にあつたことが、その動機の一因をなしているとしても、不倫な関係を維持するため原告より被告に贈与または貸与されたとまでは言い難く、仮りに不法原因給付としても、被告の積極的な働きかけによるものであり、また不法原因給付とされる目的物について契約を解除して交付されたものの返還の契約をすることは有効と解されるから、前記返還の合意が無効である旨の被告の抗弁は採用しない。

(早井博昭)

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